special corner

五百羅漢・写真展

ある日、ポストに手紙が入っていた。
手紙というのは、不思議と胸をときめかせる何かがあるものだ。
ちなみに下駄箱の中ならその効果は三割増しだ。
バレタインデーの日に無関心を装いながら、下駄箱を開けるときの緊迫感は男子ならわかるだろう。
おれの下駄箱にはよく覚えのないネジが入っていた。 まあそれはいい。

差出人の書いてない薄いピンクの封筒からは、若い女子を連想させるほのかな花の香りが漂い、おれの期待をいやがうえにも高まらせた。
おれは一目散にハサミを取りにいくと、スピーディーかつ慎重に封を切った。
封筒と同じく薄いピンクの便箋を開くと、老練の技ともいえる実に達筆な文字が並び、おれの下心を一瞬で打ちくだいた。

内容は写真展の案内状だった。
どうやらこの人物は、五百羅漢の写真展を開くらしい。
しかし妙だ。宛先はたしかにおれの家だが差出人の名前がどこにもない。
封筒から便箋にかけて、隅から隅まで調べたが、差出人の名前はなかった。
もしかしたら、流行りの消えるボールペンかもと思い、冷凍庫に入れてみたが(消した文字が復活する)、期待もむなしく、ほどよく冷えた紙がでてきただけだった。

数日後、手紙のことなどすっかり忘れていたおれがテレビを見ていると、最近一眼レフが若い女子に流行っていると特集していた。
おれの中に電気が走った。思えばキャノンは新垣結衣、オリンパスは宮崎あおい、パナソニックは綾瀬はるかで世界のソニーは北川景子だ。
時代は変わったのだ。そして四人とも妙に達筆そうだ。そして自分の名前を書き忘れそうな、おっちょこちょい感もなくはない。少なくとも綾瀬はるかは絶対忘れる。
この写真展には、なにかいいことが待っていそうな予感がしてきた。
おれは「ひゃっほう」とつぶやきつつ部屋を飛びだした。

迂闊なクリックが永遠とも感じる50枚の始まりだとも知らずに。

写真展招待状
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